2017年3月3日金曜日

狐面

緋色の襦袢に袖を通す恋人は

お狐さんになりましょうよと

白い狐面で微笑みを隠します

いつもはかない夜の向こうは

まばゆい月が浮かんだ桃の園

ゆらりゆらゆら春風が吹けば

濡れている髪を小指に絡めて

恥じらうように花びらになる

血の色の瞳の狐に化けたまま

死ぬほど抱いて抱き締めれば

三角耳の影は細い腕を曲げて

すきとおる声で夜空に鳴いた


2017年1月11日水曜日

モンマルトル

冬のゆうぐれ色ガラス

モンマルトルの裏通り

黄色い灯が照らす石畳

細い影が並んで歩いた


シャンソン酒場の重い扉を開くと

馴染みのギャルソンが

Cavabienと手招きして

店の奥のテーブルにつくと

(また騙したな)とワイングラス片手に

モジリアーニが小声で冷やかす

酔っ払いのモーリスなんか

おやおや可愛い人形だ

なんて大きな声で楽しげに笑う


それより

フロマージュと俺たちの葡萄酒をたのんで

みんなでグラスをふれ合わせる

ひさしぶりにピアフの歌に聞き入ると

モジリアーニが恋人に話しかける

ジゴロのくせにモデルにならないかなんて

小指を撫でて口説く始末である

ふふっと満更でもない含み笑いが

恋人の横顔に浮かんだ


にぎやかな笑い声につつまれて

シャンソン酒場の夜が更ける

暗い窓ガラスに滴がながれて

ピアフの恋の歌が心にしみる


恋人とグラスをふれ合わせると

ユトリロの描いたモンマルトルが

深い夜霧にしずむ 深い夜霧に・・・

2017年1月5日木曜日

神を許さない

わたしの腕に抱かれて幼い英雄が死んでいる

敵兵の銃火を浴びて小石を投げた片腕の子供

とめどなく頬を伝う涙で唇は濡れてるけれど

被弾して裂けた頬に賛美のキスをしてあげる

米国製の機関銃に撃たれちぎれて飛んだ腕に

パレスチナの栄光と祝福と魂のキスをあげる

わたしはイスラエルの神を許さない許さない

冷たい爆弾を乳房に優しく悲しく抱きしめて

穢れなき二十八歳の紅い血をあなたに捧げる

愛する祖国よわたしを花嫁に迎えてください


(当時の新聞記事より)

2017年1月4日水曜日

デスコ

古いテープが回りだしたら

ノイズ入りの音楽が流れて

心の奥に刻んだステップと

忘れた青春が目を覚ますよ


あの夜のきみは美しかった

僕の目配せになぜと囁いて

細い肩を胸に抱いて踊れば

ふたりは炎みたいに輝いた


今夜は一人ぼっちだけれど

きみの青い瞳と甘い吐息に

もういちど逢えるだろうか


好きだったデスコに来ても

可愛い笑顔の消えた舞台で

ファンキー坊やは踊らない



2016年12月30日金曜日

恋の糸

心の繭のあやうさから

あやうさを紡いで

あの人の心に結ぶ糸

風にゆれてはかなく

露にぬれてせつなく

胸の血潮が熱いのです

あやうさの糸も紅色です

逢いたくて 逢いたくて

逢えない悲しみが

夜の瑠璃色の宇宙を

ねじれねじれに飛んでゆく



瑠璃色の夜空 (2000年 niftyフリートーク掲示板)

ああ・・・

綺麗な綺麗な星空だあ

月の雫を掌にうけてみよう

陽炎のような輝きに

指先でそっと触れてみる

金色に染まった爪を

瑠璃色の夜空に向けて

忘れた文字を描く今宵